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![]() お母さんは恋をしていた。 お父さんがいるのに、恋をしていたと思う。 5年前に見つかったガン細胞は、もう手遅れの状態になっている。 お父さんは現実を受け止められないまま固まっている。 お母さんにやさしい言葉を掛けられない。 今しかないのに・・・。 お母さんは、覚悟していた。 あと半年もない命だと・・・。 しばらくはずっと借りていたゲートボールのスティック。 僕は、いつかプレゼントしたくて探した。 新品があまりにも高くて買えなかったので、時々、インターネットのオークションで探していた。 それでも高かった。 僕は、酒を減らし、たばこを減らし、願掛けのつもりで、毎月5千円を貯金して、半年後の母の日にそれをプレゼントした。 やはり、新品は買えなかった。 ネットオークションで買ったスティックをできるだけきれいに手入れしてプレゼントした。 その次の週にお母さんは大喜びでゲートボールに出掛けた。 嬉しくて、嬉しくて、息子からのプレゼントだとみんなに話していた。 僕は、初めてお母さんがゲートボールをやっているところを見た。 なかなかの腕前だった。 驚いたのは、すごく上手いのに自分のスティックを買わずに毎回借りていた人がいたことだった。 家に帰って、お母さんに聞いてみた。 「あのおじさんはどうして自分のスティックじゃないの・・・?」 「あの人は、お金がなくて自分のスティックは買えないのよ。」 「一番上手だけど、威張らないでいつもみんなと仲良くしているいい人なの。」 「お母さんあの人が一番好きなのよ。」 「きっとあの人も、お母さんのこと好きだと思うの。」 「分かるんだ。」 「でも、分かっているだけでいいの。」 「老婆の初恋なのよ。」 「もう、思うだけでいいの。」 「それだけで幸せ。」 「お父さんがいて、あんたがいて、お姉ちゃんがいて。」 「そこに、素敵な人が一緒にゲートボールをしているだけで幸せなの。」 確かにお母さんは、ゲートボールの日はバッチリ化粧して、お見合いにでも行くみたいにきれいだった。 お父さんはまんざらでもない顔をして見送っていた。
お母さんはしんどそうにして休む日が出てきた。 そんな日のお母さんは寂しそうだった。 辛そうな表情で、ウィックも付けず、ニットの帽子をかぶっている。 やせ細った頬で顔が小さくなっていく。 体もやせ細って小さく小さくなって、腰も曲がってしまっている。 僕を産んでくれたたくましいお母さんはもう面影がなく、天国の使者を迎えるために軽く、さらに軽くなっているように感じて切なかった。 それでも友達が来ると気丈に振る舞った。 お母さんは、本当の親友だけしか呼ばなかった。 お母さんは、自分がガンだと分かっていた。 だから、どれだけ苦しいかも覚悟していたし、イメージもしていた。 それでも、やっぱり苦しいのは嫌だと言っていた。 あと1ヶ月位になって、希望していたホスピスに入れた。 僕は、本当にお母さんが死ぬんだと実感し始めていた。 やっぱり、やっぱり、寂しくてたまらなかった。 お母さんのいない世界なんて想像もつかなかった。 神社に行き、お寺に行き、教会に行き祈った。 それでもお母さんは死んでしまう。 神様にどうすればいいのか何度も尋ねた。 神様は教えてはくれない。 ただ、黙って、寂しがる僕とお母さんをただただ見守っているだけだった。 そうだ、お母さんの喜ぶことをしよう。 お母さんの言うことを聴こうと決心した。 お母さんは、あまりしゃべらなくなった。 最後の力を振り絞り、お母さんが死んだらこうして、ああしてとお願い事を言い始めた。 僕は全部ノートに書いていった。 お通夜も葬儀も身内だけ、家族とお母さんの妹と僕の家族、お姉ちゃんの家族、そして、仲の良かった親友4人、家族ぐるみで付き合っていた僕の友達の家族だけ呼んで欲しいと言っていた。 そして、納骨が終わって一段落したら、ゲートボールのサークルで特にお母さんが仲良くしていた人たちだけ呼んで欲しいと言っていた。 「お母さんの好きだったあの人にお母さんの使っていたスティックを使ってもらって欲しいから、必ずあげてね。」 「これはお母さんのお願いなの。」 「あの人はきっと受け取ってくれるわ。」 「だって私のことが絶対に好きだから。」 「そして、最後のお願いがあるの。」 「あなたたち姉弟はずっと仲良しでいてね。」 「お父さんのこと大切にしてね。」 「ずっと、ずっとだよ。」
お母さんの意識が遠のいていく、前日から何度か危篤状態になっていた。 昼前になって、ご飯を食べようと部屋を出ようとしたときだった。 お母さんは手をそうっと挙げ、視線を僕に向け、僕の手を呼んでいる。 僕は、なんだ元気じゃんと思った。 僕はお母さんの手を握り、お母さんはその手をぎゅっと握り返した。 僕の顔を見ながら手を握った。 ぎこちない表情に見えたが、お母さんは一生懸命だったはず。 僕の視線を確認すると、うん、うんとうなずき、もう一度手を強く握って目を閉じた。 目尻にスーッと涙がしたたり、目元が震えていた。 そして、強く握っていた手の力が一気に抜けていった。 離したくなかった。 この手を離すと、お母さんはどこか遠くにいく感じがしてどうしても離したくなかった。 僕は大泣きした。 お母さんが死ぬなんて、嘘だ、絶対に嘘だ。 僕は、子どものようにおいおい泣いた。
納骨が終わり、一段落してから、お母さんが好きだったゲートボールの仲間達を家に呼んだ。 仏壇の遺影に手を合わせ、そして、お母さんとの思い出を語り始めた。 やっぱり、お母さんはみんなに好かれていた。 やっぱり、大切にされていた。 良かった。 嬉しくて涙が出てきた。 そして、お母さんが好きだったおじさんに声を掛けた。 「母からの遺言で、このスティックをおじさんにもらって欲しいと言われまして・・・。」 おじさんはお母さんの遺影に向かって、手を合わせ、深々と頭を下げた。 そして、おいおい泣いた。 やっぱり、おじさんもお母さんが好きだったんだと思った。 僕は心の中でつぶやいた。 「お母さん、良かったね。」 ![]() 以前、親友のお母様が感激してくださったそうめんを使った夏野菜パスタ!
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by ikenosai
| 2016-10-01 05:59
| 恋別離苦(短編集)
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