いけのさい~子育てと教育の一隅を照らす


「ありがとう!」で終わる人生を目指して、日々のことを振り返り、そして、これからのことを考える。
by ikenosai
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第4夜 吉野川の上流




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 夏休みが終わるまでの一週間を叔父の家に泊まったことを今でもよく覚えている。

夕方、仕事を終えた叔父が僕を迎えに家までやってきた。

僕の家からは車で1時間くらいかかる吉野川の上流に叔父の家はあった。

そこには血縁ではない従兄弟がいて、みんなはすでに大人になっていた。

久しぶりに子どもと関わる叔父と叔母は僕を随分と可愛がってくれた。

家に行くと、すでにカレーが作られていて、魚肉ソーセージとピーマンを炒めたのを大皿に盛って、畑で穫れたトマトやキュウリ、レタスをサラダにしてみんなで食べた。

晩ご飯のメニューはまだ子どもだった僕に合わせてくれていたようで、僕が喜びそうなごちそうだったのでカレーは3杯も食べた。

欠かさず行っていた朝のラジオ体操は近所の公園でやっている地域の小学生に混ぜてもらった。

それから朝ご飯を食べて、涼しいうちに夏休みの残りの宿題をやっていた。

一時間ほど経ってから、ラジオ体操で知り合った近所の女の子たちが3人で遊びに来た。

その日から帰る日の朝まで、毎朝一緒に夏休みの宿題をやった。

それでも、朝過ごすだけの付き合いだったので一緒に遊びに出かけるほどでもなかった。

2日目の午後はひとりで吉野川に半ズボンで入りハヤを浅瀬に追いこみ、たくさん獲っていた。

土手の上から同い年くらいの男の子が僕の様子を見ていた。

目が合って、僕がニコッとすると、近寄ってきて一緒にハヤを獲り始めた。

話す言葉や語彙の多さからも僕より賢そうだった。

しかも、魚の獲り方からか、僕より器用そうに見えた。

名前を聞くと「けんじ」と言った。

僕と同じ小学5年生だった。

次の日の昼に小学校のプールに誘われた。

叔母にプールに行くことを伝えると「もう友だちができたん?」と驚いていた。

けんじ君は少年野球をやっていて、5年生ながら1軍のエースで野球の話をたくさんしてくれた。

夏の大会は終わっていて、練習はなかった。

川に向かって石を投げ合ったとき、大人を見ているような感じだった。

一緒に遊んでいるうちに僕はけんじ君に憧れていった。

同い年の男の子に憧れるなんて、不思議だった。

しかも、いつも一番でなきゃ嫌なはずの僕が同い年の男の子に憧れるなんて。

不思議な感覚だった。

朝は女の子たちと宿題をして、昼からはずっとけんじ君と一緒に過ごした。

平日の午後はプールに行き、土日は約束をして吉野川でハヤを獲った。

遠くに向かって石を投げていると、僕は川の途中までしか届かなかったのに、けんじ君は軽々と向こう岸の土手まで届き、コンクリ壁にぶつかった石が割れて水面に落ちた。

やっぱり怪童だった。

いつか甲子園に行って活躍すると信じていた。

そして、憧れてもいたし、自慢の友だちになった。

いよいよ帰る日にはけんじ君がやってきて、「来年も来るんか?」と聞いてきたので「絶対に来るけんな」と返事をした。

しかし、それ以来ずっと会っていなかった。

それでも噂は聞いていた。

中学で野球をやって、高校は県南の強豪校に野球留学して、甲子園にも出たので、テレビでも観た。

4番でピッチャーだった。

でもけんじ君の情報はそれまでだった。


あれから30年は経っただろうか。

けんじ君のことは春と夏の高校野球のたびに思い出していた。

もう会わないし、会えないとも思っていたし、どこにいるのかも分からなかった。

あれだけの怪童でも、後には凡人に戻るものだと彼を通して学んだ気がする。

彼を思い出すたびに、凄かったあの夏の出来事を鮮明に思い出していた。

そして、憧れていた心の内を懐かしく振り返っていた。

僕にとって野球イコールけんじ君だったのかもしれない。

たぶん。


 最近、職場の同僚に飲みに誘われることがよくある。

中央線の沿線の飲み屋に行くことが多いが、面白い飲み屋があると青梅線の小作に誘われた。

そこは、新宿2丁目で一世を風靡したミスターレディーたちが成り下がっていく東京では果ての地だと聞いていた。

しかし、さすがにその世界では海千山千のオカマたち。

味わいのある接客に誰もが喜び、全盛期だったバブルの時代を懐かしく追憶させてくれる場所でもあった。

その店にも、そんな接客の上手いオカマのホステスがいて常連客を和ませていて、僕もどっぷりとはまってしまった。

まるで竜宮城のような店の中には、日頃の慌ただしい日々から逃れるようにピットインし、かわいいおばさんのようなオカマに会って骨休めをする客たちで賑わっていた。

その中に、切ない眼差しを僕に送ってくるオカマがいた。

僕は金縛りにでもあったような感覚に襲われて、それはまるで遠い記憶の忘れ物を見つけたような不思議な感覚だった。

しかし、何を忘れたのかを思い出せない。

でも、懐かしい。

彼女に、いや彼とつながっていた不思議な糸をたぐり寄せる感じで、その人に近づいていった。

何なのだろうと遠い記憶をひも解いても見えてこない。

だのに切なく甘酸っぱいような思いが奥から、奥から湧き出てきては切なくなって、自問自答のように何度も繰り返しながら、その人と過ごしていた。

少し飲み慣れてきてからのことだった。

僕はお互いの共通項を探り合うゲームを提案した。

好きな食べ物、僕は西瓜。

私は、桃。

年齢、僕は43歳。

私は、はてな?

子どもの頃に好きだったアイドル、僕はキャンディーズ。

私は、松田聖子。

今まで読んだ一番お気に入りの本、僕は落合信彦の「あめりかよあめりかよ」。

私は、あさのあつこの「バッテリー」、同じ田舎だから・・・。

僕は、完全に女の子と思って相手にしていた。

好きなスポーツ、僕は野球。

私も野球、甲子園に行ったのよ。

観に?

うっそだー。

本当だよ、岡山県代表で。

岡山県代表、またまた・・・。

僕は、女のくせに甲子園なんか行けるはずが・・・・。

あっ、この人は男だった。

思わず、もう一度ゆっくり聞き直した。

あさのあつこの「バッテリー」。

美作なの?

そうよ、昔は作東だった。

もしかして、吉野川流れている?

うん、その上流の、吉野だよ。

笑いながら、「吉野の上流じゃが・・・」って答えた。

うむ、僕も岡山、津山・・・。

むかーし、吉野に叔父が住んでいて、遊びに行った。

吉野の野球チームにけんじ君ってやつがいてそいつと遊んだ。

県南の高校に野球留学して甲子園に出たって聞いた。

知っとる・・・?

うん、よう知っとる。

わしじゃ・・・。

わしじゃがな、そのけんじ君は。

一瞬何を言っているのか理解できなかった。

今日は酔っぱらってしまったと思いながら、もう一度頭の中を整理した。

つまり・・・、あのときのけんじ君が君なのかと尋ねた。

私もあなたのこと今でも覚えとるで。

当時のことを話しているうちにその人が紛れもなくけんじ君だと分かった。

ただし、目の前にいるのは、いがぐり坊主の少年時代とは別人のようになった、女にしか見えない不思議なけんじ君だった。

 けんじ君は独身だった。

彼氏はいるかもしれないが、独身で、色々あって東京に来て、新宿2丁目から流れて最終の地、小作に来たと話していた。

また来てゆっくり話したいと伝えると、けんじ君も、私もゆっくり話したいと答えた。

午前様にならないうちに今日は帰ると伝えると、明日は早いのと尋ねるので、息子の少年野球の準決勝戦で結構強い相手なので、最後かもしれなくて、どうしても観に行かなければねと返した。

何時から?

2試合目だから11時頃かな?

どこ、中央線のそばの多摩川の河川敷。

観に行きたいわ。

本当に?

急に行きたくなって・・・。

じゃあ、ぜひ来て、待ってる。

ひとりで?

だぶん、そうだと思う。

昔の話もしたいし。

絶対に来て欲しい、待ってるね。


 翌朝になって、眠い体をたたき起こして、やっと目が覚めた。

8時には準備して、ひとり自転車に乗って多摩川の河川敷に行った。

10時半ごろ、河川敷の球場にけんじ君は現れた。

ジーンズを履いた、長い髪のキレイなおばさんに見えた。

ひときは目立つオカマにみんなが反応する。

僕はお構いなくそばに行って草原の斜面に腰をおろした。

横にけんじ君が座り、一緒に息子の試合を眺めながら昔の話をし始めた。

高校卒業までは順調に野球を続けていて、県南の自動車工場で社会人野球をしていた。

1年目のときに、ピッチャー返しの強い打球を股間に受けて不能になって、そこから、人生が大きく変わっていったことを話してくれた。

目には涙が滲んでいた。

何年もの長い間、野球を観なかったって言っていた。

それでも、やっぱり野球が好きだったことを思い出して、今は野球を観るのが楽しみだって言っていた。

あさのあつこの「バッテリー」を読んでから変わったって言っていた。

現役時代、彼はずっとエースだった。

主人公の「巧(たくみ)」に自分を重ねて、野球の醍醐味を思い出してからだった。

そのとき、やっぱり野球は素晴らしいって思ったって言っていた。

多感な時期の彼の思い出はほとんどが野球だった。

野球によって築かれていった彼の人生。

野球を取ってしまうと空っぽになってしまう。

だから、彼は、彼の心の中に野球を取り戻したのだと思う。


 息子たちの試合が終わった。

接戦の末さよなら負けだった。

試合の後で僕は息子のグローブを借りてけんじ君とキャッチボールをした。

しなやかな腕から投げおろす直球は、やはり豪腕の名残があった。

僕は受けるのがやっとだった。

失っていた大切なものを長い年月をかけて取り戻したけんじ君を見ていて、やっぱりあのころ僕自身がけんじ君に憧れていたんだと懐かしく思い返していた。

それは遠い初恋のような不思議な感覚だった。

今のけんじ君を僕は女性として見てしまっていることにときどき気づくのである。

一瞬、ドキッとして、不思議な片想いの感覚が遠い記憶から呼び戻され、それはまぼろしの女性に成就しない恋心をいだいたまま時が止まってしまっているような感覚だった。

けんじ君と別れたあと、追いかけてくる記憶の感覚からそんなことを自分なりに理解し始めていた。

そして、もう一つ思い出すことがあった。

あのけんじ君の住んでいた吉野川の上流は今、過疎化が進んでいる。

僕をかわいがってくれた叔母たちはずいぶんと前からこの世にはいない。

その子どもたちも今はそこにはいないらしい。

知る人が誰もいないあの土地に思い出だけを残していて何だか不思議でならない。

30年近くも前の僕たちの記憶の中にしかないまぼろしの一週間を。

それでも、けんじ君はこんな僕を覚えてくれていた。

こんな僕を・・・。

そう思うとやはり嬉しかった。



           クリック→ https://www.youtube.com/watch?v=p2bx9n-ybrU





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by ikenosai | 2018-02-06 08:20 | 恋別離苦(短編集) | Comments(2)
Commented by yuruteturyojyou at 2018-02-10 09:12
おはようございます。
いい話をありがとうございました。
ドラマを見ているような?
人生って素敵ですね
Commented by ikenosai at 2018-02-12 14:38
> yuruteturyojyouさん
 コメントありがとうございました!
途中からはフィクションです。
私の失恋小話をお読みくださり感謝です!
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