いけのさい~子育てと教育の一隅を照らす


「ありがとう!」で終わる人生を目指して、日々のことを振り返り、そして、これからのことを考える。
by ikenosai
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第17夜 柵原(やなはら)の風



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懐かしいポッキーのCM→ https://www.youtube.com/watch?v=_vbLl3OZ9WM


 
 16歳の春、思春期特有の炎症反応はすでに終わっていたが、恋にはまだ臆病だった。

失恋の恐怖を避けるために片想いのまま、あこがれだけを温めてはその余熱に酔いしれていた。

日曜日の午後は、自転車で家を飛び出すことが多かった。

東京のような大都会に比べると30年ほど文明が遅れているような田舎だった。

信号無しで出かけられる20~30キロくらいのサイクリングコースがいくつかあって、休みの日には好んで自転車を走らせた。

 家を出て少し走り、名坂という小さな峠をのぼると隣町の柵原に抜ける。

宮山の坂を下り、北和気を通る頃、道は穏やかになる。

あの辺の神社に巫女のように美しく清楚な女の子が住んでいるのを見つけて以来、この道を通り抜けるのが密かな楽しみになっていた。

 どきどきする心を抑えつつも好奇心からか「逢えるかもしれない」という、そんな期待も含んでいたが、あれ以来、見かけることは一度もなかった。

それでもさりげない表情で走り抜けていた。

 しばらく平らな道が続き、山に囲まれた田園の中を走っていた。

時折民家があるものの、このエリアはほとんど人気のない静かな集落。

 小川沿いを通り抜けるとまた、小さな峠に差し掛かる。

惣田(そうだ)という手書きの看板が目に入り、そこの地名だと分かった。

そこを下っていくと片上鉄道の始発駅になる柵原駅に出る。

 かつての栄華を誇った柵原鉱山の縦坑がある場所だった。

全盛期は大集落だったらしく、美空ひばりがコンサートをしたこともあったが、当時の面影が今はない。

ひっそりと静かに掘られているばかりである。

 駅舎は清里を思い浮かべるような、高原風のかっこいい建物だったが、始発駅にも関わらず、利用者はほとんどいなかった。

 静かな駅舎には駅員がいて運賃に合わせた切符に日付のスタンプを押して改札口でチョキチョキと切符切りもやっていた。

 山あいのその駅は南北にそびえる山に挟まれて昼間の一時しか日が当たらないためか、通るときはいつも暗く見えた。

 柵原駅を線路沿いに下っていくと吉井川が見えてくる。

しばらく川沿いを惰性だけで滑走すると吉ヶ原駅にたどり着く。

 列車は概ねここに集まり、何本かの引き込み線に散在している。

ここが拠点の駅だと察する。

それでも乗客は少ない。

 そのころ、菊池桃子が出ていたポッキーのコマーシャルに使われていたことが後に分かった。

「もう会えないかもしれない~」で始まる歌詞でそのコマーシャルをテレビで観ていたのだがそこだとは全く気づかなかった。

 しばらく、線路沿いをつたってもう一駅過ぎていく。

とんがり屋根の同じような駅舎が続いていた。

中学校時代に自転車で児島湾まで逃走したときに進みながら数えていた駅舎の記憶がよみがえっていた。

美作飯岡駅を過ぎると吉野川が吉井川に合流する。

 道沿いから東に向くと築山に目が行く。

空から何かが降りてきているような不思議な感覚に包まれる。

そして、小学校時代に道徳の教科書にのっていた「月の輪古墳」の話を思い出していた。

 かつて豪族がこの地にもいた証(あかし)。

それ以来、僕のパワースポットになっていた。

古墳には札が立てかけられ、史跡として地域で管理されていた。

 橋は渡らず、吉野川沿いをしばらく上っていく。

蛇行する川の周りに点在する田園風景に少し力をこめてペダルを漕いでいく。

 安蘇を抜け、湯郷の手前の位田を抜けていくと、バイトで知り合った友だちの家がある。
恥ずかしくて一度も訪れはしなかった。

一学年上の美しい人だった。

そこも独りよがりの片思いのまま静かに通り過ぎていく。

 細い山道を心細くも進んでいくと青木、下大谷に出る。

ひたすら進む山の中、蛇行するアップダウンの道、そこから奥大谷まで行くと勝央に抜ける道にやっとたどり着く。

 充分に体力を使ったあとだけに、下っていく坂道で額から頬に滴る汗が乾き始める。

やがて汗が引き、塩を噴いたようにザラザラとしてくる。

 山道にポツリと現れる銭亀ロッジというさびれた店の前を走り抜ける頃、為本に出るが、国道179号線には出ず、堂尾にまわり、新池に出る。

新池の土手下が名坂で、始まりの道に出てその日のサイクリングは終わる。

今でも草木が芽吹く頃、春の匂いとともに柵原の風を感覚的に思い出す。

思春期に感じたあの春の匂いを・・・。

 懐かしく、切なかったあの頃独特の感覚。

 そして、あの頃好きだった人たちが片思いのままで良かったのかもしれないと今は思えてくる。

あこがれのまま今も余熱のまま残っている。

 この感覚が心地よいかさぶたのままで古傷のようになっているのをこの時期に感じるのである。

もう会うことのない憧れのあの人たちを心のアルバムに閉じこめたまま僕は生きている。

もう会ってはいけないのだと思う妙な感覚の中で。

 あの頃は携帯電話がなかった。

家に電話をかけると誰が出るのか分からないので少し怖かった。

 覚悟がないままでは軽はずみなことはできなかった。

だから、そっと、さりげなく眺めるくらいで満足し、憧れのまま閉じこめていたのかもしれない。

あの頃の感覚が懐かしく、そして、青いままの部分が今でも僕の中にあるのを感じる。


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クリック→ https://www.youtube.com/watch?v=ZUkfkEe0KzI





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by ikenosai | 2017-07-01 23:56 | 恋別離苦(短編集) | Comments(0)
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