最新のトラックバック
カテゴリ
全体 お父さんお母さん のぼーる(野球) “119104”にこめて 思い出のポケット 海まで走ろう 現世に乾杯! いつか余熱に気づくとき 照于一隅 温故知新 私的視点 育て直しのすすめ 子育て 一期一会 親の通信簿 文化だより 食べること 食養生 「食育」 講演記録 駒澤大キャリア・デザイン 私の本だな 恋別離苦(短編集) 動画 40歳からのワークショップ 未分類 画像一覧
フォロー中のブログ
ミーヤーの歩知歩知日記 peddyのくまちゃん ... 田舎のくらしとパン日記 司法書士 行政書士の青空さんぽ 四季の色♪~こころに写し... ぽちのプチ日記 おすすめ海外情報 ~ta... 人生とは ? 京花 くものうえでおひるねちゅう suduの道 シルバーバーチ ー ... SAKOmama 布絵本工房 記事ランキング
最新のコメント
以前の記事
2023年 07月 2023年 06月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 メモ帳
ライフログ
タグ
ファン
ブログジャンル
検索
その他のジャンル
|
まだ海に入るには早かった。 熱海からの帰りの電車で、トンネルを抜けては見える真っ青な海に僕は微睡んでいた。 何度かそれを繰り返し、そして、向かいの席を見ては、本当なのかと不安に駆られては、覚醒するたびに安心するのを何度も何度も繰り返していた。 湯河原を過ぎたころ、僕は胸の高鳴りを感じていた。 青かった海に太陽が照り返し、宝石を散りばめたような輝きの中で現実と幻想の区別がつかないような不思議な感じになった。 真鶴を過ぎ、小田原を過ぎた。 大磯の辺りからは海が見えなくなっていた。
真っ青な空に雲一つない、台風一過のような朝だった。 7月7日の七夕の日は今年も良い天気だった。 電車に揺られながら、僕はあの七夕の日を思い出していた。 「笹の葉さ~らさら、軒端にゆ~れ~る・・・。」と僕はつぶやいていた。 朝早く、竹の枝を取りに川原まで出掛けていた。 もう戻ることのないあの人に、最後の思いをこめようとしていた。 もう片思いになってしまったけど、僕の思いを届けたくて出勤前にここに来ていた。 去年の今日、平塚駅のホームの発車メロディーにうっとりとしていたあの人の表情を忘れられないままだった。 相模線から八王子で乗り換えて都心に向かう中央線から見える場所に竹藪があった。 そのとき、あの人が竹藪を見つめながら口ずさんでいた「たなばたさま」。 あの人は、7月7日の夕方に生まれたから夕子という名前になったって言っていた。 あれから1年が経つ。 もう終わろうとしている感じがするけど、やっぱり好きで、僕にはあきらめきれない気持ちだった。 それなのに、もう半年も会っていない。 僕からの一方的な連絡もしだいに勢いを失ってしまい、切なさの中にわずかな希望を持ちつつも、それ以上の関わりを恐れていた。 思えば、今日はあの人の誕生日。 しかも、会えないままの状態から彦星のような感じになっている。 しかし、あの人はそんな感じでもなく、僕を避けているのかもしれない。 本当は嫌いなのかもしれない。 それでも僕は伝えたかった。 そして、祈りたかった。
しろの短冊には、「夕ちゃんの誕生日がすてきな1日になりますように!」
みずいろの短冊には、「夕ちゃんがいつまでも元気でいられますように!」
きいろの短冊には、「夕ちゃんがいつまでも幸せでいられますように!」
きみどりの短冊には、「どうか、夕ちゃんに良いご縁がありますように!」 と書いて、通勤先の駐車場に駐めてある彼女の車のドアミラーに掛けてきた。
僕は何となくこれからのことを思い描いていた。 僕が30歳になっても、40歳になっても、50歳になっても、夕ちゃんのことを大切にしておきたい。 もし、会えなくても、このキュンとくる切ない思いのままでもいいから、とじこめていたかった。 だから、その年になったときをイメージして、絶対に後悔しないようにという思いから夕ちゃんに嫌われないよう、それ以上には踏み込まないようにと、そう思っていた。 僕がアクションをおこさない分、夕ちゃんの思いに任せるしかなかった。 それでも、夕ちゃんに会いたかったから、最後の祈りを七夕の日の短冊にこめた。 そして、ずっと会えないままだった。
40歳をこえた僕は七夕になると今でもあの頃のこと、そして、願いをこめた五色の短冊のことを思い出す。 若かった恋心に思いを馳せ、少しセンチメンタルな気持ちになる。 そして、彼女とはもう会ってはいけないのだと思うのである。 それは、決して開けてはならない玉手箱のように。 遠き日の追憶に浸るとき、戻れない過去に、そのとき以上の期待感とでもいうか、何か成就したものを追いかけてでも取り返したいような、上手く説明ができない悶々とするものを感じる。 しかし、結果として、これで良かったと自分を納得させる理由を集めては、若き日の青かった自分を振り返る。 そして、最後には、彼女に「ありがとう!」という思いになる答えをいくつも、いくつも探している。 そして、そのうち、そう思える僕自身に少しだけプラスの感情がたされて、少しだけ成長したように思えてくる。 そうすることで、あの頃の自分を好きになっていくのである。
短編集「恋別離苦」より
by ikenosai
| 2016-07-01 22:00
| 恋別離苦(短編集)
|
Comments(0)
|
ファン申請 |
||