いけのさい~子育てと教育の一隅を照らす


「ありがとう!」で終わる人生を目指して、日々のことを振り返り、そして、これからのことを考える。
by ikenosai
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最新のトラックバック
終戦のエンペラー
from Anything Story
カテゴリ
画像一覧
お気に入りブログ
記事ランキング
最新のコメント
 いつもやさしいコメント..
by ikenosai at 21:10
素敵なお写真ですね。 ..
by suzu-clair at 08:01
> manekinnte..
by ikenosai at 21:45
大トロ・・・・ そ..
by manekinntetti at 06:24
> sakomamabo..
by ikenosai at 23:10
以前の記事
メモ帳
ライフログ
タグ
ファン
ブログジャンル
検索
人気ジャンル

タグ:新月 ( 1 ) タグの人気記事


第7夜 新月に片思い


第7夜 新月に片思い


e0148909_23495833.jpg

 仕事を辞め、大好きだった彼女にもふられ、東京でのことをあきらめて、田舎に帰ってしまった。

東京での失恋の痛手は大きかった。

それでも希望につながるものを求めていた。

いろんな人の力を借りて就職もした。

みんなは東京帰りの僕を新顔としてコンパに呼んでくれた。

そして、同世代の独身の女の子たちを次々に紹介してもらった。

20代中盤の僕にもまだまだチャンスはあって何人かと付き合ったが数ヶ月も経てば自然消滅していた。

それでも、夜遅くに遊びに行って朝まで一緒に過ごす女の子もいた。

僕なりに真面目に付き合おうと思っていても、相手の方がその程度の気持ちだったのか、途中で虚しいものを感じることもあった。

田舎に戻って驚いたことがあった。

それは、こんな田舎でも、さらに地方からやってきて一人暮らしをしている女の子が何人もいたことだった。

そんな中で一人の女の子と知り合い、ある日の午後に海までドライブに誘った。

夜勤明けの彼女は助手席でずっと眠っていた。

初夏の平日で誰もいない海に出かけた。

テーブルを出し、パラソルを立てると、彼女はテーブルにうつ伏せて、幸せそうな表情で僕を見た。

僕は、遠い昔に別れてきたかつての恋人の笑顔を取り戻したかのような気持ちになって、何だか嬉しくなった。

しかし、僕への恋愛の気持ちは彼女にはなさそうだった。

それでも僕はしたたかに時を待っていた。

夕日はすでに落ち、曲がりくねった海辺の道を何キロもドライブしていくうちに、広い砂浜に出た。

暗闇の砂浜は遠くの漁火が反射して何とか自分たちの位置が確認できる明るさだった。

さざなみの音を聞きながら海に向かって腰をおろしていた。

不倫を続けていた彼女の心の隙間に必死で入り込もうとしていた。

大人ぶった彼女が僕のことを嘲笑うかのようにあしらっているのが会話の節々から伝わってきた。

それでも僕はどうにか彼女の心を掴もうとしていた。

 成就しない不倫の虚しさは彼女にはなく、僕とは違う世界の人間だとあきらめかけていた。

彼女はブラウスに長いスカートのまま裸足になって砂浜を歩いている。

ふくよかな胸が不倫相手の性のおもちゃのようにさえ思え、切なかった。

手を握ってもそれ以上先には進めず、スレた女を気取っていて、如何にも遊び人で大人の世界を知っているのだと言わんばかりのような感じに僕には見えた。

あの大きな胸に顔をうずめ、彼女と普通の恋愛をしたかった。

しかし、次第に消極的になり、とうとう僕はうぶなチェリーボーイのように彼女にあしらわれたままなす術がなかった。

こうなっては彼女の恋人には昇格しない。

半分あきらめの境地になっていた。

帰りの車の中でもそれは続き、そして、とうとう彼女のアパートに着いてしまった。


 やっぱり駄目だとあきらめて、車から降りていく彼女を見ていた。

すると彼女に「お茶でも飲んでいく?」と部屋に誘われた。

小さなアパートには不自然なダブルベッドが部屋の半分を占めて存在していた。

ここであの男と情事に至っているのだと思うと去年まで女子大生だったあどけなさと裏腹に現実は穢れてしまっている肉体とのギャップに寂しさを感じてしまった。

それでも不思議なことに、どうにか彼女を好きになろうともしていた。

少し心配な表情で彼女の気持ちを引く言葉を必死で考えていた。

そうしているうちに彼女の心の隙間にすっぽりと入り込んでいったのか、その夜のうちに一線を越え、彼女の体に触れたまま朝を迎えた。

彼女と過ごしていると切なさが増し、彼女への悲哀の思いが増大していった。

あれだけ遊び人に見えていた彼女は、今の不倫相手とが初めてで、それ以来、その男一人しか経験していなかった。

僕は、成就しない淫らな恋愛を普通にしている彼女に汚らわしさを感じ、穢れた女として見ていたにもかかわらず、その肉体を貪っている自分に後ろめたさを感じていた。

激しい交わりを何度も重ね、欲望を満たすために何度も何度もそれを繰り返していた。

しかし、若さからか何度も何度も回復しては朝までそれを繰り返した。

愛人をしているあの男にとってこんなに都合の良い女はいないだろうと感じながら僕はしなびた干物のように力尽きて彼女の部屋を出て行った。

ふくよかな肉体をさらに強調している豊満な胸が一晩中僕の欲望を覚醒させ、その強い感覚が何日も頭の中から離れなかった。

そして、数日後には欲求が増大し、我慢できなくなって、とうとう彼女に電話して、あの男のいない夜に訪問し、大きなベッドの中で彼女の肉体を貪っていた。

滾滾と湧く欲望を抑えきれなくなってしまい、一週間のうちに何度も会いに行った。


 彼女は僕と愛人を使い分けていた。

そして、僕より10歳も年上のあの男のことを本気で好きだと話した。

奥さんも子どももいるあの男にとってはもう一つの家のようになっていた。

約束がとれない日に、彼女のアパートの前を通ると必ずあの男の車が停められていた。

今がまさに情事の最中だと思うと、いい加減な気持ちでいたはずの僕はジェラシーを感じつつも早く本命の女を見つけなければというずるい男になっていた。

そして、あの男がいない夜には僕から連絡をして彼女と朝まで交わっていた。

彼女は連日どちらかの男と一晩中過ごしていたことを思うとどんな気持ちで僕の体を受け入れているのか不安だった。

しかし、時には彼女から不安そうに電話をかけてきて、僕が一晩中慰めるような日もあった。

不安そうに将来を見据えたあの眼差しに僕は同情し、必死で彼女が喜ぶことを模索し悩んでいた。

それからも、何度か真剣に付き合おうと誘ってみたが、最後にはあの男のことを捨てられないと話し、あの男への情の深さをまざまざと思いしらされてしまった。

そして、僕は別の彼女と付き合い始めていたのに、ときどき彼女のアパートに遊びに行くと、いつもどおりのコースで朝まで交わり合う関係が変わらず続いていた。

そして、嫉妬もしない彼女が結局は僕にとっても都合の良い女になっていた。

それでも僕との交わりが減った分だけ時間ができ、その隙間にさらに新しい男が入り込んでいた。

ある日、その存在を淡々と僕に話したときに彼女は僕にとって永遠の2番目の女としてその地位を確定させてしまった。

そこからは、飲んだ夜も、ただ欲望を満たしたいだけの夜も躊躇することなく連絡して、先約がなければただ好きに交わって帰ることもあった。

彼女は僕にとっての2番目だったが、彼女にとっての僕も2番目かそれ以下だった。

それでもあの豊満な胸に顔をうずめて激しく交わる日は間隔こそ広がってはいたが、続いていた。


 その後、僕が再び上京して会えなくなっても、手紙を送ってきて、僕が帰省するたびにいつものように会っていた。

それから、さらに1年くらい経って連絡が途絶えた。

そして、とうとう音信不通になってしまった。

彼女を知る人からの話で、彼女はあの愛人が横浜に単身で転勤になったとき、全てを引き払ってついて行ったという事実を聞き、前世からの縁なのか、腐れ縁なのか、男女の不思議な関係が現実にあるのだということを思い知らされた。

それから僕は、一人の人しか愛さないことを心に誓った。

そして、彼女を永遠の2番目の存在にしたまま終止符をうった。


 初めは穢れたものとしてさげすんでいたはずのあの時の彼女を懐かしく思い、今でも暗い砂浜に立つとあのころの彼女を思い出すのである。

特に新月のような暗い日は懐かしくあのときの海を思い出す。
潮風に吹かれながら漁り火に照らされていたあの日のことを。

そして彼女のことが好きだったのだということに気づかされる。

何も伝えられず離れていったこと。

そして、僕の記憶の最後ではあの男のところに行ったままになっていること。

果たして彼女は今、どうしているのだろうと気になり、どうか幸せに暮らせていますようにと祈ってしまうのである。


e0148909_23494316.jpg






[PR]

by ikenosai | 2017-02-25 23:55 | 恋別離苦(短編集) | Comments(0)