いけのさい~子育てと教育の一隅を照らす


「ありがとう!」で終わる人生を目指して、日々のことを振り返り、そして、これからのことを考える。
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第2夜 放課後の続きで・・・



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第2夜 放課後の続きで・・・

 3年生が引退し、しばらく試合はなかった。

放課後の教室は、真面目に部活に出る者、家に帰る者でいつの間にか僕と仲の良い女の子だけになっていた。

別段、話し込むわけではなく、ただ何となく一緒に教室にいるのが心地よかった。

ときどき話したり、ぼんやり外を眺めたりして過ごしていた。

次の日も、その次の日の放課後もいつの間にか彼女と二人きりになっていた。

僕はドキドキしながら過ごす放課後を毎日楽しみにしていた。

彼女もずっといるので嫌ではないだろうと感じていた。

それでも恥ずかしくて好きだとも、付き合って欲しいとも言えなかった。

時折、時間が止まればとさえ思っていた。

胸がキュンと苦しくなる。

そんな毎日を味わうように過ごしていた。

家に帰ってからも、風呂の中でも、朝の練習で走っているときも頭の中はいつも彼女のことでいっぱいだった。

それでも、告白できないまま時間だけが過ぎていた。

そんな僕と彼女が過ごす時間をちゃかす女子生徒がいて、しだいに居づらくなってきた。

そして、何日も続いていたはずの彼女との楽園は終わった。

それ以来、顔を合わすと何だか気まずく、照れくさそうに笑うだけ。

それ以上には進めなかった。

会話がなくなってしまい、お互いの関係がぎこちなくなってしまった。

とうとう僕はあきらめて真面目に部活に行くようになった。

入学当時から、いずれはキャプテンになると言われていたのに、こんなサボり癖からか、キャプテン候補から外された。

信用を失ったこともショックだった。

恋は盲目、彼女のことで頭がいっぱいになり、結局は部活に身が入らなくなって、信用までも失ってしまっていた。

それでも、試合には勝ちたかったので誰にも負けないだけの練習を再び始めていた。

ある日、部活が終わって街に向かって歩いていたときのこと。

幻となった彼女との放課後以来、ぬけがらのように僕は歩いていた。

すると、橋の向こうからニコニコと手をつないで歩いてくるカップルに目が留まった。

男は男子校の奴で僕よりも不良っぽく、かっこいい。

そして、横にいる女の子は僕が好きな彼女だった。

絶望感にさいなまれた僕は、どん底に突き落とされる思いだった。

気まずそうな僕を苦笑いで見ていた彼女。

僕の一方的な思いだったのかは分からないが、恋人に裏切られたような感覚に襲われ、一気に心が沈んでしまった。

そして、彼女はあの男とどこまでの関係なのだろうかと余計な不安までも・・・。

もう、失うものがなくなった感じになって、空っぽの心の中に小さな灯りを必死でともそうとしていた。

その日からだった。

一心不乱に部活に打ち込むようになったのは。

切なさを忘れたいがために練習に励んだ。

練習に励んで、さらに気持ちが晴れないときは、ひたすら走った。

20キロ走った日もあった。

それでも彼女への思いは続いていた。

教室で顔を合わすのが辛く切なかった。

それは、3年生になっても続いた。

やっぱり彼女が好きなままだった。

心の内をずっと言えないままだった。

そのころの僕は硬派で、プラトニックでも心が通う恋愛を求めていたのだと思う。

誰かを思い続けるような恋こそが成就すべき恋だと思いこんでいた。

一方的な思いだったが誰にも遠慮がいらない、そんな片思いは卒業まで続いた。

ずっと彼女が好きだった。

彼女は地元の大学に進学した。

卒業式が終わってから何日か経って僕の進路がきまったので、ほとんどのクラスメートは僕がどうしているかなんて知らなかった。

彼女もそうだった。

僕の存在なんてどうでもよかったのだと思っていた。

 冬休みに帰省し、街を一人で歩いているとき、彼女とバッタリ会った。

相変わらず、可愛いままだった。

あの頃の感覚がすぐに戻っていた。

やっぱり彼女を好きだったことを思い出した。

東京に戻ってから数日後、彼女から手紙が届いた。

僕が東京に出ていたことをどうやら最近知ったみたいだった。

そして、あの二人だけの教室でのことを懐かしく、あの頃が楽しかったと綴っていた。

やっぱり告白すれば良かったと後悔した。

 春休みになって彼女が東京に遊びに来た。

東京の大学に通う兄のアパートに泊まっていた。

すぐに電話をもらった僕は、早々に会いに新宿駅まで出かけた。

西口のカフェで待ち合わせて会った。

僕の片思いだとは思ったが、今夜デートができたらと誘ってみた。

一生に一度しかないチャンスだった思う。

しかし、その日の夜は9時までバイトに入っていた。

そのバイトのあとなら必ず会えるので、夜9時にバイトが終わるとすぐにアパートに帰るから、もし時間があったら連絡して欲しいと伝えていた。

もし、あの時の思いが成就するなら・・・と密かに期待していた。

 バイトは夜9時を過ぎても、客が減らず、交代でくる先輩が電車の人身事故の影響で足止めになっていた。

結局、先輩はこなかった。

僕は閉店までバイトに入り、帰ったのは深夜2時だった。

アパートに帰ってみると、留守番電話に4件のメッセージが入っていた。

彼女が1時間おきに連絡をくれていた。

最後の時間が深夜12時になっていた。

きっとそこまでは会うことにしていたのだと思った。

一瞬にして僕の思いは、伝えられないまま途絶えてしまった。

それは今もずっと。

もう会うのも怖い感じがする。

やはり、閉じこめたまま、開けてはいけない小さな思い出。

ずっとそのまま、遠い記憶に閉じこめたままに・・・。

 今頃になって、遠いあの日を思い出す。
どうにもならない恋だったけど、あの頃好きだった彼女との思い出はやっぱり今でも美しいままになっている。

もう会わないほうがいいのだと思う。

開けてはいけない玉手箱なのだとずっと心にしまい込んでいる・・・。



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by ikenosai | 2017-04-01 22:29 | 恋別離苦(短編集) | Comments(0)

第3夜 山背(やましろ)に散る



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 第3夜 山背(やましろ)に散る 


 19歳の11月、オリンピックの予選で京都に来ていた。

一週間分の荷物を大きなバッグに詰めて来たが、3回戦で敗れ、帰ることになった。

同じ日に負けた後輩と京都駅で別れ、僕は音信不通になっていた彼女のところに行くことにした。

アドレス帳を見ると石清水八幡宮の近く。

場所をしっかり確認してそこに向かった。

すぐに住所は見つかったが留守だった。

何時間か時間をつぶし、再び戻ったがまだ留守だった。

やはり、会えないのかと呆然と立ち尽くしていた。

すっかり日が暮れて、しばらく経って彼女の部屋の方を見ると、明るくなっていた。

僕は急いで玄関に行き、ノックをした。

僕の顔を見るなり気まずそうな彼女には、かつてのワクワクするようなやさしいまなざしはなくなっていた。

全日本選手権でベスト16までいったこと、そして、これまでのことをたくさん話したが、結局、長居もできず追い出されてしまった。

その様子から、新しい男がいるに違いないと悟った。

もう、ここにはいられない。

切なさもあったし、試合の疲れもあって、どうでもよくなっていた。

駅に向かい電車に乗ったが、次の淀駅でその日の電車は終わってしまって、どうでもよい気持ちが加速し、考える力もなくなってしまっていた。

しかし、失恋とは裏腹に空腹を感じ、駅前に1軒だけラーメン屋があったのでそこに入り、がっくりと肩を落としラーメンをすすっていた。

試合にも負け、さらに失恋の傷手はかなり堪えた。

ラーメンを食べ終えても、どうすることもできない。

しかし、ここに留まるわけにもいかない。

ぼんやりとしながらも時折、これまでのことを振り返っていた。

1年前の冬、一夜を共にした日のことを。

あの柔らかな肌に触れ、唇に触れ、一点の曇りもない思いを彼女に寄せていたこと。

それだけを思い出し、それだけを励みにひたすら東京でがんばっていたこと。

さっきまでその思いは続いていたはずだったのに・・・。

なのに、あの一瞬で崩れてしまった。

たったこれだけの出来事にも左右されるほど重い恋だったのかとも思った。

何も手に付かないほどに僕の心は傷ついていた。

もう取り戻すことのできない現実から逃れようとして、歩いていた。

そして、遥か遠くに見える京都タワーを目指して歩いていた。

パラパラと降り始めた雨の中を傘も差さずひたすら歩いていた。

おおよその見当でも10km以上はあったはず。

それでも“トコトコ”歩いた。

そのとき僕にはそうするしかなかった。

無気力だったが、止まることもできず、歩くしかなかった。

今さら雨を理由に彼女のところに戻る訳にもいかず、ただただ京都タワーを目指して雨の中を歩き続けた。

雨に濡れ、上着が重くなっていった。

さらに、1週間分の遠征の荷物の重さも加わり、体力は一気に消耗していった。

真夜中の京都で、降りしきる雨の中を僕の抜け殻が歩いていた。

あれだけ遠くに見えていたはずの京都タワーが少しずつではあるが大きくなっていた。

真夜中の雨と失恋の痛手で身も心も完全に冷えきってしまって・・・。

暗闇の道はときどき車が通り過ぎて行ったが、ヒッチハイクをする気にもなれず、この傷手を味わいつつ、センチメンタルな自分にただただ酔いしれていたのかもしれない。

京都タワーが見えなくなった。

見上げると、すでに真上だった。

駅舎はまだ開いておらず、入り口の階段に腰を下ろし、丸くなっていた。

動きを止めてしばらくたつと寒くなってきた。

湿った服からしみこんできた水分で冷やされた体がブルブルと震えてきた。

疲れと寒さ、しだいに遠のく意識。

そんな中でシャッターの開く音で再び意識が戻った。

西に向かうホームに行き、最初に来た電車に乗り込んだ。

網干行きだった。

これなら終点まで行っても平気だった。

コトコトと電車が動き始めて足元のヒーターがじんわりと足を温め始めた。

そして、心地よさからかしばらく深い眠りについた。

明石を過ぎた辺りから停車するごとに目が覚め、姫路で姫新線に乗り換えた。

たまたま、津山までの直通の列車がホームに入っていて急いでそれに乗り込んだ。

どんよりとした早朝に、湿った空気が立ちこめる客室にぱらぱらとしか座っていない乗客。

4人掛けの向かい合わせの座席に座り、靴を脱いで向かいの席に足を乗せ、小雨の降る外をぼんやりと眺めていた。

播磨高岡、余部、太市、本竜野、東觜崎、播磨新宮、千本、西栗栖、三日月、播磨徳久、佐用、ここまでくれば、あとは目をつぶっていても、家に帰れる。

ノスタルジーの風に誘われて、初恋を思い出していた。

大人への階段の途中、あれは、中学2年の夏休み、自転車で兵庫に入り、千種川を下って相生に行った時のことがよみがえってきた。

まだまだ青く、失恋も淡々としていたように感じていた。

あのころに比べると、失恋のレベルも随分と変わっていた。

やはり失恋のダメージは大きかった。

それはかなりのものだったのだろう・・・。

家についてからも一日中布団に潜り込んでしまって、何もする気がおこらなかった。

どんなに思いを寄せていても、あの人にはこの思いは届かなかった。

それでも、思い尽くしたという妙な満足感だけがしばらくの間僕の支えになっていた。

そしていつしか、そんな思いも薄れていった。


数年後のクラス会、彼女と久しぶりに会うことがあった。

もうすでにニュートラルな気持ちになっていて、違和感や不安などなくなっていた。

しかし、彼女の方は気まずそうだった。

彼女の口から「結婚するね。」と一言告げられた。

僕は精一杯の笑顔で「おめでとう。」と応えた。

それから10数年が経った。


 次に会ったとき、僕も結婚し、それぞれが独身ではない関係でお酒を飲む機会があった。

それは、昔の仲間を交えてのことだった。

彼女の苗字が結婚前に戻っていた。

どこでボタンを掛け違えて来たのか、恋焦がれていたあのころの懐かしさと、破局を迎えてしまった彼女の心境を思うと、複雑な切なさが鈍痛な感覚ではあったが、ジワジワと僕の心の中に伝わってきた。

しかし、彼女の本音はわからない。

本当は清々しているのかもしれない。

それでも、僕ならば、僕が彼女の夫ならばきっと後悔するに違いないと思った。

図々しくも、「僕と結婚していれば良かったのに・・・。」と思ったが、その言葉をそっと心の中に閉じこめた。

果たして、彼女は今幸せなのか・・・。と、ときどきそんなことを思う。

あれから何年か経ってしまったが、彼女とは会っていない。


 今ごろになってつくづく思うことがある。

あのころの僕は青く、無垢な心だったのだと・・・。

奈良の都の平城京、やがて月日が経ち、色々あって山の背に遷都された平安京。

山城(山背)の地名の由来を高校時代に習った。

彼女はそのころ、同じ教室で過ごしていた。

しかし、あの京都での出来事は、僕にとって、しばらくの間、応仁の乱のあとのようだった。

まるで焼け野原のようになってしまって、心の傷手に支配されていた・・・。

そして、修復しないままになっている。

完治する傷ではないけれど、それを忘れられるものを求めて生きてきた。

振り返れば、感謝とともに、心の中の風景は古都の味わいに変わっていた・・・。

僕を穏やかな心へと運んだものは、新しい人との楽しい時間の積み重ねに他ならない。


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by ikenosai | 2016-12-18 16:13 | 恋別離苦(短編集) | Comments(0)