いけのさい~子育てと教育の一隅を照らす


「ありがとう!」で終わる人生を目指して、日々のことを振り返り、そして、これからのことを考える。
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第8夜 消えた花火


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第8夜 消えた花火

 碧い海を砂丘のいちばん高いところから眺めていた。

やっと登りきった高い場所で汗だくになって海を見下ろしていた。

そして、久しぶりに見る日本海の碧き海に微睡んでいた。

海の大きさに見とれ、そして、何をやっても生きていける、そんな大きな気持になって水平線の彼方を眺めていた。

飽きることのない碧き海にすべてをゆだね、もうどうでもいい、なるようになる、そう思って急な斜面を駆け下りて、勢いよく海に飛び込んだ。

熱狂的な感情に襲われ、叫びたくなって、そして、何度も叫んでは海に飛び込んだ。

海の中は、うっすらとした青さが遠くまで続き、その先には小さな魚の群れが見える。

ときどき浅瀬にやってくるボラたちが必死で泳いでいる。

どこまでも続く砂と透きとおる水、そしてその彼方にある碧い海。

海の中の世界は上から見下ろしていた碧い海とは違っているのに、どちらの景色も美しい。

その中にいるだけで生きている実感と、幸福感からか歓喜がこみ上げてくる。

一緒に来た友人と狂ったように海に潜り、何度も何度も魚の群れを追いかけていた。

海が橙色に変わるまで僕たちは魚のように泳いだ。


 漁火が空の明るさを上回り、やがてその明るさしか見えなくなった。

海辺のカフェで時間をつぶしていた。
店には昨晩も来ていた二人組の女の子がいたので花火を一緒にしようと誘った。

暗闇に上がる花火の強い光をたよりに何度も表情を確かめては小さな駆け引きをしていた。

やがて、ふたつのカップルに分かれた。

それぞれのカップルが別行動になり、僕たちは砂丘に駆けだした。

僕は彼女の手を握り、砂丘のいちばん高い場所に連れて行った。

高い場所からは、暗闇の中の海に浮かぶいくつもの漁り火が、微かな明るさを届けてくれる。

その明るさは、僅かに僕たちの存在が確認できる程度の明るさだった。

反対の空を見上げると、手の届きそうなところに数え切れないほどの星が散らばっている。

その星と海から差し込む漁火が幻想の一夜をつくり、それだけで開放感に包まれ、僕たちは無意識に向かい合い、砂の上に座り、抱き合った。

引き寄せられるように体と体を重ね合わせ、抱き合っていた。

心地よい風が強く砂を巻き上げ、僕たちの体に当たっては下に落ちていた。

唇を重ね、お互いの心の内側にまで入ろうと、息を荒立て、押さえられない興奮に戸惑いながら、風の中で強く抱き合ったまま星空に包まれていた。

奇蹟のような一夜が白々と明け始めていた。

僕は、朝が来るのが怖かった。

必ず朝が来て、しばらくしたら彼女は夢から覚めて、恋が終わると思っていたから。

たとえ、僕が覚醒したままでいても、現実は離ればなれになり、一夜の記憶でしか残らない。

一瞬にして消えていく恋の終わりを予感し、憂鬱な感覚におそわれていた。

一夜のアバンチュールに酔い、名前も知らないまま、過ごしていた彼女がドライアイスのように、僕の熱で小さく、小さくなっていくのを感傷的に受け入れるしかなかった。

もう、夏が終わる。

僕の夏がもうすぐ終わる。

そんな感覚で立ち上がり、陽炎のような儚い恋を感じていた。

瞬きのうちに現実が消され、儚さだけしか記憶に残らない。

自分が獣のようにさえ思え、理性を失って一夜の恋に微睡んでいる。

夜明けとともに、ふたたび合流し、交わす言葉も少なく、ぎこちない。

そして、彼女たちの泊まっているペンションまで送りとどけ、別れてきた。

たとえ、一夜の恋人であっても、永遠の恋人のような眼差しで意味深な目配せをするものの、何も言えなくて、さらっと別れてきた。

 男同士になり、しばらく無言だった。

それぞれが、陽炎のような一夜の恋を胸に閉じこめて、語り合うこともしなかった。

だから、今日まで僕も黙っていた。

彼女にまた会いたい。

僕はそう思い、そう願っていた。

 ポカンと穴の空いた心のまま一週間が過ぎ、さらにもう一週間が過ぎた。

違う友だちに誘われ、あの海に行き、砂丘のいちばん高い場所に座っていた。

海を見下ろすと、あのときの僕たちの光景に似た、若者たちが楽しそうに海で遊んでいた。

ああ、僕の恋は終わったのだ・・・、あの日の朝に・・・。

陽炎のように消失したのだと思い、ぼんやり若者たちを眺めていた。

 どこか聞き覚えのある弾んだ声に、一瞬、ハッとなった。

そして、その声の女の子をよく見てみた。

楽しそうに男の子と手をつなぎ海ではしゃいでいた女の子は、あのとき一夜をともにした彼女だった。

陽炎のように儚くも、大切にしていたはずの記憶が粉々にされてしまい、僕は、思わず、後ずさりして、その場所から立ち去ってしまった。

太陽がギラギラと照りつける熱い、熱い砂の上で、汗だくになっていた。

赤道直下に落ちた砂漠のミイラのように、僕は渇ききっていた。

僕の心は渇ききってしまって、そして、潤わない心のまま、この夏が終わるのを覚悟した。

気が付けば、必死になって、その場から逃げていた。

一夜の恋など成就するはずがない。

僕は、何度も何度も自分に言い聞かせていた。

いや、慰めるように心の中でつぶやいていた。

それでも、あの夜の出来事は嘘ではなかった。

そう信じて、残りの夏を過ごしていた。

今年はもう、海に行ってはいけない、絶対に行かないと心に決めて・・・。




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# by ikenosai | 2017-02-04 22:49 | 恋別離苦(短編集) | Comments(0)

第10夜 初恋


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 新しい春の風に吹かれていた。

まだ、12歳の僕はふわふわとした感じで学校に通っていた。

野球部に入ろうか、サッカー部に入ろうかと思っていたのに、何だか自信がなくて、結局は誰も踏み入れていない新しいものを求めていた。

負けず嫌いなくせに自信がない。

しかも、全校生徒は千人もいる。

力に差がないと思ったのでバレー部に入った。

そして、覚悟を決めて丸刈りにした。


 最初の数ヶ月は、見込みがあると思われたので気合いが入った。

先輩たちは強く、地区でも優勝するチームだった。

体育館を2つに仕切るネット越しに、女子のバレー部の練習が見える。

女子も強かったので、顧問の先生も協力し合って、強化練習をやっていた。

月曜日から土曜日まで部活はあった。

土曜日は、顧問の先生の車の洗車が1年生の練習メニューに組み込まれていた。

モップの太い棒をしごき用の棒に細工して、時々生徒のおしりを叩いていた。

怖くておっかない顧問の先生。

それでも、どこからとなくこみ上げてくる愛情を僕は感じ取っていた。

この先生に気に入られたら、きっと強くなる。

そんな錯覚さえもあった。

顧問の先生は絶対的な存在、つまり、神様のような存在だった。

練習着はまだ体操服だったので、学年もクラスも名前も分かった。

1年生の女の子も全員分かった。

いつも気になる女の子。

ぱちりとしたやさしい目に僕は心奪われ恋に落ちた。

一方的な僕の思い。

寝ても覚めても、彼女のことばかり。

ノートのはしに漢字や覚えたてのアルファベットで名前を書いたりして、授業中は上の空。

放課後は、誰にもばれないように彼女を探し、眺めていた。

恥ずかしくて、僕ひとりの中にその思いを閉じこめては、あの笑顔を思い出し、恍惚になり、思春期特有の発作に襲われていた。

 もう、彼女しか見えない。

電話をかけて、彼女が出ても、そこから何も言えなくてこっちから切ってしまう。

恥ずかしくて恥ずかしくてどうしようもない。

片思いだけが何倍にも膨らんでいく。

そんな日が何日も続いていく。

そして、切なさだけが膨らんだ状態で残ってしまう。

切なさをかき集めて、僕は手紙を書いた。

好きで、好きで、大好きで、もう止まらない、彼女への思いを手紙にしたためた。

手紙は郵便で出した。

必ず届いて欲しいという気持ちからか、切手を2枚貼って、2倍の料金で出した。

投函した日は、彼女を見かけても、まだ、大丈夫だった。

しかし、2日、3日と経って、不安になってきた。

しかし、手紙を止めるわけにはいかないので、とうとう覚悟した。
3日目に彼女と目があったとき、いつもと違う感じがした。

手紙が届いたのだろう。

それでも、僕はそのことに触れることができず、ためらったまま、何もできないでいた。

何日も、何日も過ぎて、段々とそんな不安な感覚、切ないままにいることに慣れてきた。

切ない夜を何日も集めて、センチメンタルな夜を膨らませ、その感覚に酔いしれていた。

自分の世界に閉じこもり、世界で一番センチメンタルな少年になりきっていた。


 秋から冬にかかるころ、試合がないオフシーズンに入った。

張り合いもなく、連日続く、筋肉トレーニングにうんざりし始めていたころだった。

僕は、不良の仲間に加わり、部活をサボり始め、放課後の街に繰り出していた。

一度、たがが外れると、もう後は落ちるところまで一気に落ちていった。

先輩に呼び出され、部室に行くと、殴られた。

それも、休んだ日数分殴られた。

泣きながら、練習に加わるが、ついて行けず、次の日は結局サボってしまった。

遠目に見えていた彼女の様子が、僕とは裏腹に充実している。

僕は、自分でだめな奴の烙印を押してしまった。

とうとう先生に呼ばれ、殴られた。

あれだけ車を洗ってやったのにという、恩着せがましい思いがあったが、どうしようもなくこみ上げてくる僕の不穏な感覚は、結局のところ、自業自得でこうなったのだという自分の不甲斐なさから、やがて懺悔の思いへと変わっていった。

それでも、先生は僕を心配してくれていた。

やっぱり、神様だった。

時々、家まで会いに来てくれた。

これまで結局、かっこ悪い僕だけしか彼女には見せていなかった。

もうその後に成就することはないとあきらめた。

そうしているうちに、僕はバレー部をやめてしまった。

 それでも、何かやったらどうかと、親に進められ、卓球部に入った。

学校では花形だったバレー部をやめてしまい、半分帰宅部がいる卓球部に入っても、きっと続かないだろうと自分では思っていた。

それでも、不良から足を洗っていたので、暇だった。

2年生の初夏、3年生が引退したので、僕は先輩にしごかれることもなく、自分たちの時代を迎えた。

練習は、誰にも制限されなかったので、毎日行って、見る見るうちに力を付けて、秋の大会にはレギュラーになった。

それでも時々横目にバレー部の練習を見ていた。

やっぱり、彼女は可愛かった。

ずっと変わらず、僕の憧れのままだった。

僕は去年より10センチ背が伸びた。

彼女は、去年より大人びてきた。

走ると胸がゆらゆらと揺れて、くびれた腰からお尻にかけてのシルエットに僕は目のやり場に困ってしまう。

本音は、誰もいないところでずっと見ていたかった。

何だか僕だけが子どものまま置いてけぼりにされている、そんな感じがしていた。

しかも、バレー部をやめてしまって、根性のないヘナヘナな男にしか見えていなかっただろう。

それでも、彼女がずっと好きだった。

その思いは以前からずっと変わりなかった。

帰宅部だけにはならないまま、試合にも出ていた。

それでも、ずっと地味なままの卓球部だった。

それに引き換え、女子のバレー部は、地区大会を制覇し、彼女はその中でもレギュラーだった。


 3年生になって、彼女と同じクラスになった。

しかも、男女で遊ぶ同じ仲良しグループに僕も彼女もいた。

あのまま返事の来ていない一方通行の恋文は僕と彼女だけの秘密のままだった。

切なかったが、あの1年の時よりもその感覚は薄れていた。

それでも、彼女と話すとき、あのかわいい眼差しにどきどきしていた。

同じグループで話したり、遊んだりして成就しない恋ではあったが、敗者復活戦で上位入賞したくらいの嬉しさはあった。

あのとき、告白していなかったら、今こそ告白して成就したに違いないとも思ったが、やはり、何の取り柄もない僕だけに、よくよく考えると、恋人に昇格はしないだろうと思い直した。


 3学期になって、いよいよみんなの進路が見えてきた。

僕は県立高校と滑り止めに私立高校を受験した。

彼女は、バレーの特待で僕とは違う私立の高校に行くことになっていた。

卒業式が終わって、春休みになって、みんなで遊ぶ日が何回かあった。

しかし、彼女は一回も来ることなく、新学期が始まった。

結局、卒業式に会ったのが最後だった。

しかも、高校2年の途中で、父親の転勤で九州に転校してしまった。

いよいよ彼女は遠くに行ってしまった。

結局、あのときの恋文の返事は帰ってこなかった。

精魂込めて、何日もかけて、推敲した力作だったのに・・・。


 大人になってから、あのときの仲良しグループにいた女の子たちと飲んでいたときに、ふとしたタイミングで、当時の恋文の話を出したら、女の子たちはみんな知っていた。

なので、とっくに僕の失恋は決まっていて、僕より先にみんな知っていたのには赤面した。

それでも、彼女の思いに否定的な感じがなかったのか、今日までみんな黙って、一緒に楽しく過ごしていてくれていた。

僕は、もう会うことのない彼女に思いを馳せ、心の中でそっと「乾杯」をした。

僕が初めて恋した人に「ありがとう」って・・・。

(「恋別離苦」失恋小話より)








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# by ikenosai | 2017-01-15 12:11 | 恋別離苦(短編集) | Comments(0)

新しい年を迎えました!


新しい年を迎えました!

あっという間に過ぎた年末年始!

1月4日から仕事始め!




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クリスマスの食事は、鴨肉、スペイン風オムレツ、鶏肉のサイコロステーキ、魚介のクリーム煮スープ、
蟹のフィットチーネ、大根とロースハムのサラダ、スパークリングワイン、子どもはソフトドリンク


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12月30日の早朝に深夜バスで帰省!
実家の居間の天井・・・!


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元日は息子と2時間半の散歩
遠くに那岐山(中国山脈)


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中学・高校時代はこの池で泳いでいたが、
今は怖くて泳げない・・・!


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地元の氏神様!


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いつもの近所の蔵!


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1月3日の早朝深夜バスでUターン!
うちの奥さんの焼津にいる友人からいただいたマグロを寿司にして!


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ほぼ、大トロの美味しいネタ!

そして、これから仕事始め・・・!






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# by ikenosai | 2017-01-04 09:32 | 食べること | Comments(4)

娘たちの作品展


12月17日(土)

午前中から五日市まで柚狩り。

そのあと、昼食を兼ねて知人に連れられ「瀬音の湯」へ。

その後、妻と待ち合わせて娘の高校の作品展を八王子駅前の東急スクエアまで観に行った。


作品展は、残念ながら16日(金)~18日(日)までの3日間のみ。





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五日市からさらに奥へ




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昨年と同じ柚の木の剪定


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今年は少なめだった!



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夕方から八王子駅前の東急スクエアへ



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入り口の看板も娘の絵!


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外に面した優秀な生徒たちのコーナー


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中に入って娘たちのコーナー
パンダ好きの娘の作品(左から2番目)







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# by ikenosai | 2016-12-24 10:08 | 子育て 一期一会 | Comments(2)

第3夜 山背(やましろ)に散る



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 第3夜 山背(やましろ)に散る 


 19歳の11月、オリンピックの予選で京都に来ていた。

一週間分の荷物を大きなバッグに詰めて来たが、3回戦で敗れ、帰ることになった。

同じ日に負けた後輩と京都駅で別れ、僕は音信不通になっていた彼女のところに行くことにした。

アドレス帳を見ると石清水八幡宮の近く。

場所をしっかり確認してそこに向かった。

すぐに住所は見つかったが留守だった。

何時間か時間をつぶし、再び戻ったがまだ留守だった。

やはり、会えないのかと呆然と立ち尽くしていた。

すっかり日が暮れて、しばらく経って彼女の部屋の方を見ると、明るくなっていた。

僕は急いで玄関に行き、ノックをした。

僕の顔を見るなり気まずそうな彼女には、かつてのワクワクするようなやさしいまなざしはなくなっていた。

全日本選手権でベスト16までいったこと、そして、これまでのことをたくさん話したが、結局、長居もできず追い出されてしまった。

その様子から、新しい男がいるに違いないと悟った。

もう、ここにはいられない。

切なさもあったし、試合の疲れもあって、どうでもよくなっていた。

駅に向かい電車に乗ったが、次の淀駅でその日の電車は終わってしまって、どうでもよい気持ちが加速し、考える力もなくなってしまっていた。

しかし、失恋とは裏腹に空腹を感じ、駅前に1軒だけラーメン屋があったのでそこに入り、がっくりと肩を落としラーメンをすすっていた。

試合にも負け、さらに失恋の傷手はかなり堪えた。

ラーメンを食べ終えても、どうすることもできない。

しかし、ここに留まるわけにもいかない。

ぼんやりとしながらも時折、これまでのことを振り返っていた。

1年前の冬、一夜を共にした日のことを。

あの柔らかな肌に触れ、唇に触れ、一点の曇りもない思いを彼女に寄せていたこと。

それだけを思い出し、それだけを励みにひたすら東京でがんばっていたこと。

さっきまでその思いは続いていたはずだったのに・・・。

なのに、あの一瞬で崩れてしまった。

たったこれだけの出来事にも左右されるほど重い恋だったのかとも思った。

何も手に付かないほどに僕の心は傷ついていた。

もう取り戻すことのできない現実から逃れようとして、歩いていた。

そして、遥か遠くに見える京都タワーを目指して歩いていた。

パラパラと降り始めた雨の中を傘も差さずひたすら歩いていた。

おおよその見当でも10km以上はあったはず。

それでも“トコトコ”歩いた。

そのとき僕にはそうするしかなかった。

無気力だったが、止まることもできず、歩くしかなかった。

今さら雨を理由に彼女のところに戻る訳にもいかず、ただただ京都タワーを目指して雨の中を歩き続けた。

雨に濡れ、上着が重くなっていった。

さらに、1週間分の遠征の荷物の重さも加わり、体力は一気に消耗していった。

真夜中の京都で、降りしきる雨の中を僕の抜け殻が歩いていた。

あれだけ遠くに見えていたはずの京都タワーが少しずつではあるが大きくなっていた。

真夜中の雨と失恋の痛手で身も心も完全に冷えきってしまって・・・。

暗闇の道はときどき車が通り過ぎて行ったが、ヒッチハイクをする気にもなれず、この傷手を味わいつつ、センチメンタルな自分にただただ酔いしれていたのかもしれない。

京都タワーが見えなくなった。

見上げると、すでに真上だった。

駅舎はまだ開いておらず、入り口の階段に腰を下ろし、丸くなっていた。

動きを止めてしばらくたつと寒くなってきた。

湿った服からしみこんできた水分で冷やされた体がブルブルと震えてきた。

疲れと寒さ、しだいに遠のく意識。

そんな中でシャッターの開く音で再び意識が戻った。

西に向かうホームに行き、最初に来た電車に乗り込んだ。

網干行きだった。

これなら終点まで行っても平気だった。

コトコトと電車が動き始めて足元のヒーターがじんわりと足を温め始めた。

そして、心地よさからかしばらく深い眠りについた。

明石を過ぎた辺りから停車するごとに目が覚め、姫路で姫新線に乗り換えた。

たまたま、津山までの直通の列車がホームに入っていて急いでそれに乗り込んだ。

どんよりとした早朝に、湿った空気が立ちこめる客室にぱらぱらとしか座っていない乗客。

4人掛けの向かい合わせの座席に座り、靴を脱いで向かいの席に足を乗せ、小雨の降る外をぼんやりと眺めていた。

播磨高岡、余部、太市、本竜野、東觜崎、播磨新宮、千本、西栗栖、三日月、播磨徳久、佐用、ここまでくれば、あとは目をつぶっていても、家に帰れる。

ノスタルジーの風に誘われて、初恋を思い出していた。

大人への階段の途中、あれは、中学2年の夏休み、自転車で兵庫に入り、千種川を下って相生に行った時のことがよみがえってきた。

まだまだ青く、失恋も淡々としていたように感じていた。

あのころに比べると、失恋のレベルも随分と変わっていた。

やはり失恋のダメージは大きかった。

それはかなりのものだったのだろう・・・。

家についてからも一日中布団に潜り込んでしまって、何もする気がおこらなかった。

どんなに思いを寄せていても、あの人にはこの思いは届かなかった。

それでも、思い尽くしたという妙な満足感だけがしばらくの間僕の支えになっていた。

そしていつしか、そんな思いも薄れていった。


数年後のクラス会、彼女と久しぶりに会うことがあった。

もうすでにニュートラルな気持ちになっていて、違和感や不安などなくなっていた。

しかし、彼女の方は気まずそうだった。

彼女の口から「結婚するね。」と一言告げられた。

僕は精一杯の笑顔で「おめでとう。」と応えた。

それから10数年が経った。


 次に会ったとき、僕も結婚し、それぞれが独身ではない関係でお酒を飲む機会があった。

それは、昔の仲間を交えてのことだった。

彼女の苗字が結婚前に戻っていた。

どこでボタンを掛け違えて来たのか、恋焦がれていたあのころの懐かしさと、破局を迎えてしまった彼女の心境を思うと、複雑な切なさが鈍痛な感覚ではあったが、ジワジワと僕の心の中に伝わってきた。

しかし、彼女の本音はわからない。

本当は清々しているのかもしれない。

それでも、僕ならば、僕が彼女の夫ならばきっと後悔するに違いないと思った。

図々しくも、「僕と結婚していれば良かったのに・・・。」と思ったが、その言葉をそっと心の中に閉じこめた。

果たして、彼女は今幸せなのか・・・。と、ときどきそんなことを思う。

あれから何年か経ってしまったが、彼女とは会っていない。


 今ごろになってつくづく思うことがある。

あのころの僕は青く、無垢な心だったのだと・・・。

奈良の都の平城京、やがて月日が経ち、色々あって山の背に遷都された平安京。

山城(山背)の地名の由来を高校時代に習った。

彼女はそのころ、同じ教室で過ごしていた。

しかし、あの京都での出来事は、僕にとって、しばらくの間、応仁の乱のあとのようだった。

まるで焼け野原のようになってしまって、心の傷手に支配されていた・・・。

そして、修復しないままになっている。

完治する傷ではないけれど、それを忘れられるものを求めて生きてきた。

振り返れば、感謝とともに、心の中の風景は古都の味わいに変わっていた・・・。

僕を穏やかな心へと運んだものは、新しい人との楽しい時間の積み重ねに他ならない。


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# by ikenosai | 2016-12-18 16:13 | 恋別離苦(短編集) | Comments(0)