いけのさい~子育てと教育の一隅を照らす


「ありがとう!」で終わる人生を目指して、日々のことを振り返り、そして、これからのことを考える。
by ikenosai
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第11夜 潮騒の向こう岸


上を向いて歩こう!

 仲良し3人組だった永六輔さん、神津善行さん、中村メイコさん。

やがて、神津さん、メイコさんが婚約することになり、その報告をメイコさんが永さんにしたときのこと。

永さんは、目がうるうるしているのにメイコさんは困ってしまい、近くの公衆電話から父に相談。

父からのアドバイスが「涙がこぼれないように、上を向いて歩いて帰りなさい」と言ってあげれば・・・。

それを、そのまま永さんに伝えたのです。

数年後生まれた名曲の秘話だそうです。

                                     

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第11夜 潮騒の向こう岸



 小学校5年生で初めてキャンプに行った。


僕たちの学年は1クラスだけ、しかも23人しかいない。


僕は全員の家に遊びに行ったことがある。

そんな小さな学校なので、キャンプに行っても、手伝いに来る親たちを全員知っている。


1泊2日のキャンプは、山の上にある廃校になった中学の運動場だった。


夕食のカレーも、キャンプファイヤーも先生や親たちが一緒だった。


練習してきた歌をみんなで歌って、そのあと、大人たちが準備していた余興が始まった。


今になって覚えているのは、1つだけ。


1つだけ強烈に覚えているものがある。


「おさななじみ」という歌を10人の大人が順番に歌っていったことだった。


あれ以来、おさななじみという言葉と、あの歌がいつも重なる。


そして、忘れられない曲になっている。


「おさななじみの思い出は、青いレモンの味がする・・・」。


そのとき以来、初めてのキスの味がレモンの味だと信じていた。


キャンプファイヤーの向こう側、火に照らされて見えていたあのかわいい笑顔が忘れられない。


あの笑顔の先に、青いレモンの味が待っている。


あのとき、僕のゴールはあの笑顔の先にある青いレモンの味だと信じていた。


閉じるまぶたのその裏に、あのときの笑顔の君はもういない。


 セーラ服の君はスルーしたけれど、いつか未来で結ばれると信じて、ただただ黙って君に憧れていた。


ラブレターだって何度も書いた。


でも出せなかった。


大学生のとき、僕たちの小学校が建て替えられた。


解体の時にセレモニーがあって、解体後の校舎の床下から、小さな封筒が出てきた。


僕はそっと拾ってみた。


やっぱりそうだった。


6
年生の時に出すはずだったのに出せないままになって、床の下に隠してしまっていたあのラブレターだった。


僕なりの思いが綴られていて、まるでタイムカプセルを見つけたようだった。


恥ずかしくて、誰にも見せられないので、すぐにポケットの中に隠してしまった。


セレモニーでは参加者全員で校歌を歌った。


はっきり歌詞を覚えていた。


君を思い出すのはこの校歌と小学校のキャンプで聴いた「おさななじみ」。


僕はずっとあの笑顔のままの君が好きだった。


それは、今でも・・・。


 あれから君はどこに行ったのか。


君のお兄さんが殺人未遂事件を起こしてから、君の一家は急にいなくなった。


そして、被害者が1ヶ月後に亡くなって、一家どころか、親戚までもいなくなった。


 あきらめきれないままでいた僕は、君を探すことにした。


風の便りに流されて、山陰に行ったり、北陸に行ったりした。


果たして君はどこにいるのだろう。


高校時代の友人、看護師をしていたころの友人、手当たりしだいに君の手がかりがあれば訪ねてみた。


休日を利用しては、手がかりを探しに、探偵のように出かけていった。


しかし、そんな近くには住めないだろうと察していた。


病院をしらみつぶしに探し、看護師が働ける、老人ホームや障害者施設も探した。


探しているうちに分かったことがあった。


お兄さんが事件を起こす前、君には婚約者がいたこと。


僕は婚約者を見つけて、なぜ、君を見捨てたのか問いただした。


事件のことがバレないように君は生きている。


どうか、まだ、生きていて欲しい。


必ず僕が会いに行くから。


そう祈るしかなかった。


 君の足跡が少しずつ分かり始めた。


3年前に働いていた場所、そこは、大きな大学病院の末期癌の病棟だった。


近所に借りたアパートと病院を行き来するだけの日々。


もうすぐ死んでいく患者を必死で励ましていたと同僚の看護師が教えてくれた。


そして、ある日、理由も告げず、その職場から消えた。


その次に行ったのが、養護施設だったと聞かされ、僕は、北陸にある、海辺の養護施設を探していた。


具体的な場所が分からず、何回も探し回った。


その時点で、もとの名前は通じず、偽名を使っているのではということが分かってきた。


半分はあきらめの境地だった。


君はいったいどうしているのだろう。


どうか、生きていて欲しい。


そう祈るしかなかった。


5年ほど、僕はそのエリアをさまよっていた。


週末のほとんどを、はるばる北陸を訪ねていた。


もう、探すのではなく、君のまぼろしと対話していたのかもしれない。


独り言のように、何度も君に話しかける。


そして、幼いころの思い出をつぶやいていた。


 海辺の古びた老人ホームの側でぼんやり海を眺めていた。


裏庭の広い敷地で、たくさんのシーツやタオルを干している女性がいた。


潮騒に混じって洗濯物を干している女性。


時々聞こえる鼻歌混じりのハミング。


僕は、鳥肌がたってきた。


それは僕の小学校の校歌だった。


僕は、押さえられない衝動にかられて、その女性の側に行って、その歌をなぜ知っているのか訪ねた。


女性は、以前、ここで働いていた看護婦さんが時々口ずさんでいたと教えてくれた。


もしかしてと思い、特徴を聞いた。


女性は、事務室に通してくれて、アルバムを見せてくれた。


そして、この人よ、と指さした。


君だった。


僕は、熱いものがこみ上げて、ブルブルと震え始めていた。


やっと君に会える。


そう思った。


僕は、この女性はどこにいるのか訪ねた。


すると、事務室にいたもうひとりの職員が、昨年、亡くなったと話した。


身寄りもなく、孤独だったことが分かった。


君は、睡眠薬を飲んで、いよいよ眠くなって、これから満ちていく海にのまれていった。


最期に何を思っていたのか。


そう思うと、涙が溢れてきた。


君が元気だったころを必死で思い出していた。


君が死んでいった浜辺に僕はうつぶせて、湿った砂浜を握り拳で叩きながら泣いていた。


もう、戻ってこない君を、心の中で必死に追いかけていた。


追いつけないままの君だと分かっていたのに。


ただ好きだったあの頃を思い出しながら、そして、小さくなっていく君の記憶に微睡みながら、さようならとつぶやいた。


境界線の向こう岸で君は僕を見ている。


やっと会えた。


そう思って安心していた。


このまま君の側に行くつもりで、その境界線を乗り越えようとしていた。


しかし、境界線に川が流れ、その幅がどんどん広がっていき、とうとう君が遠くになっていった。


「あなたはまだ、ここに来てはいけないの」と君が言う。


そして、「まだ生き続けて、人生の本当の意味を理解してから私に会いに来て欲しい」と言うのである。


君の願いを心に受け止めた瞬間に、苦しみが僕をおそった。


潮が満ちて海にのまれる間際だった。


生き続けることへの君からの最後のメッセージだった。


だから、僕は生き続けることにした。


誰かの幸せのために、そして、君が果たせなかった幸せのために。


短編集「恋別離苦」より


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by ikenosai | 2016-07-12 09:33 | 恋別離苦(短編集) | Comments(0)
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