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高校生のとき、ロッキーを初めて観た。
感動した私はジムのトレーナーにその話をしたら、あれは架空の話だからあり得ないと言われた。 無名の選手が世界チャンピオンに挑戦する話だった。 もしかしたら勝てるかもと期待しながら見入っていた。 先日、日本チャンピオンになった後輩の初防衛戦があった。 下馬評では明らかに彼に具があったので、私は勝つものだと思っていた。 しかし結果は、わずか45秒で負けてしまった。 相手の選手は千載一遇のチャンスをうかがっていたのである。 チャンピオンはその相手にわずかな隙を見せてしまった。 私のボクシングのデビュー戦は高校2年生の夏だった。 弱輩のため高校のときはわずか3戦しかできなかった。 しかも同じ相手に全て判定負けだった。 白星なしで大学に進学し、大学2戦目で、アジア大会出場が決まっていた全日本チャンピオン(後にプロでも日本チャンピオン)の赤木氏と対戦した。 まさにその試合は千載一遇のチャンスだった。 ためて打った左フックが完全に相手の顔面を捉えた。 手応えがあった。 しかし、その一発で相手が目を覚まし、そこからは連打の応酬を受け、レフリーに止められてしまった。 大学4戦目で2年連続高校チャンピオンと対戦した。 高2でライトヘビー級、高3でミドル級のチャンピオンだった。 彼の存在はボクシングマガジンでよく知っていた。 無名だった私にまた千載一遇のチャンスがやってきた。 ここで勝てば、今までの私の何かが変わるかもしれない。 そう思っていた。 相手は減量してのウェルター級だった。 ライト級の私は増量してもリミットには届かなかった。 一週間前のメンバー交換で、下馬評は0対10で完全に相手の勝利だった。 私もそう思っていた。 それでも、やるからには勝つための方法を必死で探っていた。 リングに上がって挨拶をするとき、すでに相手の視線が私を威嚇しているのが解った。 私は、あえて視線を合わさなかった。 そして、ゴングが鳴った。 中央まで相手がきた瞬間にパンチが届きそうだったので、得意の左ストレートで顔面を叩き、そこから猛ラッシュをかけた。 一発一発に力を込めて連打した。 ワンツーワンツーとストレートの連打が全部当たった。 相手は反撃する間もなく、ただただ私の連打を浴びている。 早く相手を沈めたくて、レフリーが割って入るまで私は殴り続けた。 スタンディングダウンを奪っても、相手はファイティングポーズをとり、まだまだ応戦する意欲を見せている。 嘘だろう、早く沈んで欲しいと祈るような気持ちだった。 効いているはずなのに表情を全く変えることなく私に向かってくる。 まるでデスマスクのようだった。 私はゾンビと戦っているのかもしれない。 必死で力を込めて連打を浴びせた。 相手はロープを背にして倒れた。 レフリーがまたカウントを数え始めた。 もう終わるだろう、いや、もう終わりにしたいと思った。 相手がファイティングポーズをとり、応戦する意欲を見せている。 あれだけ殴られても、まだあきらめないので恐くなった。 早く倒れて欲しいと祈るように連打を浴びせた。 反撃の隙も与えず、連打を打ち続けるのに必死だった。 やっとレフリーが止め、試合が終わった。 その瞬間、相手がぐったりとしているのに気がついた。 完全にグロッキーになっていた。 私は一発もパンチをもらうことなく終わった。 開始から60秒だった。 リング上で私の勝利がコールされたとき、私は冷静を装って静かにしていた。 しかし、本音は飛び上がってガッツポーズをしたかった。 胸の高鳴りを必死で押さえていた。 リングを降りるとき、先輩たちが口々に「ナイスファイト」と言ってくれた。 当時、連盟の役員をしていた総監督が走ってきて、「今日の試合は良かった。あの選手は強いんだよ」と嬉しそうに褒めてくれた。 無名だった私が、やっとこのレベルでも対応できると思った瞬間だった。 千載一遇のチャンスはめったにない。 だから、チャンスに恵まれたとき、このチャンスを掴もうと必死になるのだと思う。 なぜならば、その向こうには滅多に訪れることのない栄光への近道が存在しているからだろう。 ボクシング以外でも、千載一遇のチャンスに恵まれた。 しかし、今となっては千載一遇にかけることよりも、地道に歩むことの方が遙かに大切で意味があるのだと思うようになった。 運悪く負けてしまうこともあるだろう。 そこで負けてもいい。 大切なのはそこから地道に這い上がっていく努力である。 少々のことでは怯まぬ不動の心身である。 “継続は力なり”千載一遇を捉えるのも、タイトルを守るのも日々の積み重ねの賜物にほかならない。 だから、大切なものを日頃より体得していくことである。
by ikenosai
| 2009-08-16 07:09
| 私的視点
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